京セラおよびKDDI(旧・第二電電)の創業者である稲盛和夫氏は数々の著書を出されていますが、多くの著書の内容は重複しています。ほとんど同じことを繰り返し述べているといっていいでしょう。しかしながら、その言葉は決して重複しているから退屈ということはなく、読むたびに深く心に染み渡ります。6月に集中して5冊あまりの著作を読んだのですが、稲盛氏の思想に学ぶところがたくさんありました。
稲盛氏の仕事観と人生論は、ひとつの方程式に集約されます。
それがタイトルに掲げた「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」です。
どういうことなのか、実際に検証しつつ紹介してみますね。
この方程式の前提として「考え方」はマイナス100からプラス100までの値、「熱意」「能力」は1~100までの値とします。
いま、平均的な能力50と平均的な熱意50の池田さん(仮名)がいるとします。
Aさんが平均的な考え方をすると、50×50×50で人生・仕事の結果は12万5,000となります。
ところが、高平さん(仮名)は熱意も能力も池田さん(仮名)と同じ平均的な50 の力があるのに、組織に不満があったり、仕事を批判的にとらえたり、とにかくネガティブ思考で、考え方がマイナス50だとします。
するとどうなるか。マイナス12万5,000の結果になってしまいます。
稲盛氏の解説によると、なまじ熱意や能力が高かったとしても、考え方がネガティブであれば、熱意や能力があるからこそ正反対の残念な結果になってしまうということです。
よくいるタイプだとおもいました。かつて会社に努めていたときの自分もそうだったかもしれません。能力はともかく、熱意だけはあったと自負しているのですが、ネガティブ思考に転じてしまうと、逆に熱意がマイナスのベクトルに働いてしまうんですよね。
さらに、山本さん(仮名)は能力は25 しかないのですが、自分にスキルがないことをしっかりと自覚しています。そこで卑屈になることはなく、自分に能力がないからこそ普通のひと以上の75の熱意を持ち、素直で前向きな75の考え方を持っていたとします。
計算すると、Cさんの人生・仕事の結果は14万625になります。つまり平均的なAさんよりもすばらしい結果を残すことができる。
もちろんこれは普遍的な方程式ではなく、稲盛和夫氏の「哲学」を数式化したものです。平凡な人が最大の結果を出すにはどうすればいいのか、ということを考え抜かれて考案した方程式だそうです。この方程式のポイントは次の3つではないでしょうか。
①能力はなくてもかまわない。
「スキルがないから」とか「才能がないから」という理由で人生や仕事を諦めてしまうひとがいます。けれども能力はなくてもいいのです。熱意もしくは考え方でカバーすればいいのですから。
「熱意」がないと感じたひとは、まずは眼前の仕事や日々の生活に没頭してみることです。たとえば、歯を丹念に磨くでもいい。あるいは、挨拶だけは大きな声でしっかりするでもいいのです。そういう「人間の基本」を愚直かつ誠実に遂行することによって、人生が好転することがあります。
②熱意は大切。
稲盛和夫氏は、人間には3種類のタイプがいるといいます。第一に「可燃性」、第二に「不燃性」、第三に「自然性」のタイプです。
「可燃性」というのは誰かから指示を受けたら熱意やモチベーションを高められるひと。「不燃性」は、何か指示されても熱意を燃やすどころか消してしまうような冷めたひとです。クールといえば聞こえがいいかもしれませんが、「そんなの無駄だよ」とか「それって前もやったことがあったけどダメだったよね」などと発言して組織全体の士気を低下させるようなひとでしょう。
「自然性」のひとは誰から何も言われなくても、自発的にモチベーションを高められるひとです。自律的といってもいいかもしれません。自分で課題を発見し、目標を定め、困難に立ち向かっていける人物のことをいいます。
稲盛氏は、自然性のひとであれ、ということを述べています。「モチベーションが上がらない」と愚痴るひとがいますが、正確には「モチベーションを上げられない」というべきであり、みずからを燃やすことができないのは自分に原因があります。ひとから指図されて燃えるのは「可燃性」の人であり、もし自分の人生や仕事で結果を出したいとおもうのであれば、自ら燃える「自然性」の人であることが必要です。
③考え方が人生と仕事を大きく左右する。
考え方の値はプラスからマイナスまでありますが、方程式が掛け算である以上、この値が大きく結果を左右します。稲盛氏が強調されているのは「正しい」考え方です。この正しさとは、世代が変わったとしても正しいと認識されることであり、「天」つまり神様が認める正しさです。決して私欲から生じた正しさではあってならないとします。
「考え方」は「哲学」といってもいいかもしれません。通常、哲学というと、どこか日常生活からかけ離れた役立たないものという認識がありますが、稲盛氏の哲学は実践的なものであり、単なる概念の戯れではありません。このような実践的な哲学を持つことは大事です。
企業において哲学とは「経営理念」といえるでしょう。ジェームズ・C・コリンズ/ジェリー・I・ボラスによる『ビジョナリーカンパニー』では、持続的に価値を生み出す企業の条件として「基本理念」の重要性を説いていますが、しっかりとした哲学を軸に据えた企業は事業がブレないものであり、企業ブランドとしての信頼性も高いといえます
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稲盛氏の方程式から3つのポイントを確認しました。もうひとつ大事なことは、「人生」と「仕事」がリンクしているということ。「仕事」を通じて人間性を高めて、結果として人生を豊かにしていくことが稲盛氏の思想の根源にあります。
「仕事なんて稼ぐための手段だよ」とか「ブラック企業ばかりの時代に社畜になってあくせく働くのは馬鹿じゃね?」という考え方もあるかもしれませんが、要はそういうマイナスの考え方をしていれば自分の人生をマイナスに導いて、勝手に自滅するだけです。
自滅しても構わないのであればマイナス思考に拘泥していればいい。
しかし、自分の人生を誠実に生きようとするのであれば、稲盛和夫氏の方程式から学ぶことはたくさんあります。
■参考図書
生き方―人間として一番大切なこと 稲盛 和夫 サンマーク出版 2004-07 by G-Tools |
働き方―「なぜ働くのか」「いかに働くのか」 稲盛和夫 三笠書房 2009-04-02 by G-Tools |
心を高める、経営を伸ばす (PHP文庫) 稲盛和夫 PHP研究所 1996-05-31 by G-Tools |
ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則 ジム・コリンズ ジェリー・I. ポラス 山岡 洋一 日経BP社 1995-09-29 by G-Tools |
(外岡 浩)