え?何これすごい!とおもっったYouTubeの動画がある。「忍者女子高生 | 制服で大回転 | japanese school girl chase #ninja」がそうだ。
■忍者女子高生 | 制服で大回転 | japanese school girl chase #ninja
何気ない高校生活のシーン。制服の女の子が笑っている。スマホで撮影したような、わずかに手ぶれ感のあるローファイな映像だ。カメラのなかで、とつぜん女の子たちの追いかけっこがはじまる。その追いかけっこは次第にエスカレートして、バク転したり、高所から飛び降りたり・・・。
彼女たちは「忍者」なのである。
そして最後、さんざん追いかけっこして疲れた砂浜で、バッグから炭酸飲料を取り出す。蓋をあけると、ぶしゅっと飲料が飛び出す。そりゃそうだ。あれだけ回転したり跳躍したり、激しく動き回ったのだから。しかし、このとき、その飲料が「C.C.Lemon」であることにはじめて気付く。「あ、これサントリーのCFだったんだ!」とわかる。
うまいなあ、とおもった。広告と感じさせない広告。まさに「忍者」みたいな広告だ。
逃走シーンが見事な映像としては、何年か昔になるけれど、テイラーという女優がパパラッチから逃げる動画があった。
■Taylor Momsen escapes paparazzi
これも「え?すげー!」という驚きのある映像だ。そして実は、「NIKE(ナイキ)」のCFだった。彼女もまたNinja である。
ところで、「忍者」といえば、こんなコンテンツもあった。
■"忍者女子"との社内恋愛には気をつけろ!
http://jump.2ch.net/?news.livedoor.com/article/detail/8979848/
率直なことを書く。明らかにサントリーの動画と比べると、このコンテンツはダサい。やらせ感が強烈に臭う。クサい。
そもそも不自然な物語、みょうな写真で注目(Attention)を集め、最後に「七変化」するという共通項で東芝の新製品「dynabook KIRA L93」に落とし込むのだが、広告の手法の域を抜け出していない。要するに古典的なティザー広告の一種であり、不自然で陳腐な物語つきの記事広告ともいえる。
最も問題だとおもわれるのは、これは自分だけかもしれないが、ぼくはこの記事を読んで「dynabook KIRA L93」を買いたいという購買意欲が1ミリも起きなかった。だいたい最初で何か胡散臭いものを感じて、きちんと読みさえしないで、ずっと放置していた。読んだのは1ページ目と最後のページである。で、「ああ、やっぱりね」とおもってクリックしてブラウザを閉じた。
コンテンツマーケティングは、面白ければいいってもんじゃないだろう。
広告の主な役割は話題作りによる認知拡大だが、やはり製品(コンテンツじゃなくてね)に興味(Interest)を抱かせ、これ欲しいなという欲求(Desire)や、最終的には「購買行動(Action)」を喚起するものでなければ、膨大なムダである。
たぶん業界の内輪ウケでは盛り上がったんじゃないかとおもう。しかし、陳腐な演出は逆効果でしかない。たとえば物語という演出。物語の重要性はダニエル・ピンクも『ハイ・コンセプト』で述べている。広告における物語の重要性はかなり前から指摘されてきた。しかし、物語に感動や驚きがなく、「やらせ感」や「ただ注目を集めるだけの突拍子もなさ」しか感じられなければ陳腐である。
サントリーの「忍者女子高生」には驚きがある。最後のシーンでぶしゅっと吹き出す「C.C.Lemon」にシズル感がある。「あーこういう風に炭酸飲料を噴射しちゃうことあるんだよね(苦笑)」という共感がある。しかしながら、東芝の「忍者女子」には「こんなやついないだろ」という嘘っぽさしか感じられない。「面白さ狙ったでしょ。でも残念でした。つまらないでーす」という感想しかない。
要するにライブドアに掲載されていた、コンテンツマーケティングを標榜したと思われるコンテンツは、たとえ数万ページビューというアクセスをたたき出したとしても、「なんか変なものみちゃった(苦笑)」という居心地の悪い印象しか残らず、もしかすると「これ変だから見てみて」と拡散しただけだったかもしれない。「なんか忍者の面白いコンテンツあったよね。ええと、あれどこの製品の広告だっけ?」ぐらいにしか感じていないひとも多いのでは。
ライブドアに掲載されたアレは、コンテンツマーケティングを気取った「擬態広告」でしかなかった、と考えている。
擬態広告も広告の一種である。だが、そこには巧妙に閲覧者を騙す不誠実さが潜んでいる。擬態広告に気を付けろ、と警戒を発したい。
面白いだけのひとが軽んじられるように、面白いだけの広告に信頼はない。面白さに釣られて読んだけれど「なんだこれは!売り込みじゃねーか、騙しやがって」と反感をかって、ブランドに傷を付けてしまうことさえあるかもしれない。だいたい、マーケターは消費者の「釣り師」になっちゃいけないのだ。インバウンドのためには、何をやってもいいわけじゃない。誠実さの感じられない薄っぺらな広告にはうんざりだ。
でも、C.C.Lemonの動画はいいよね。アマチュア感の漂う、親近感のある映像に和んでしまいます。
(外岡 浩)