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春だというのに冷たい雨が降り注ぐ4月20日土曜日、世田谷線のちいさな電車に揺られて三軒茶屋へ。世田谷ものづくり学校で開催されたイルカの学校、小林弘人さんの講演「僕らがWebから学ぶこと 先生も上司も教えてくれない、ワイルドな時代のサバイバル術」に行ってきました。

とにかく寒かった。ジャケットを羽織らずに外出したのですが、とんでもない誤算でした。ネットの案内によると、世田谷ものづくり学校は三軒茶屋から歩いて15分と書かれている。覚悟はしていたのだけれど、傘を差しながらiPad miniで開いた地図を頼りに歩く道のりは途方もなく遠い。凍えそうになりながら歩いて、やっと辿り着いたかとおもったら学校の裏門だったりして、その裏門で迷っているひとふたりと遭遇しました。そのうちひとりは、後で名刺交換のときに盗み聞きしたところミクシィの方だったようです。

はじめて訪問したIID(IKEJIRI INSTITUTE OF DESIGN)世田谷ものづくり学校。ほんとうにここは学校なのです。2004年3月に廃校となった旧池尻中学校跡地を利用して「デザイン・建築・映像・食・アート・ファッション」など、さまざまな分野のクリエーターに教室を開放している。入り口から校舎に足を踏み込むと、文化祭のような雰囲気がわーっと広がっていて楽しくなりました。階段を登って2階の奥にある「教室」が講演の会場でした。

P1000665.JPG会場内は白い壁にウッディな床が目にやさしく、黒板の場所にはプロジェクターでスライドが投影され、アップルのコンピュータが設置されています。席には四角い木のちいさな椅子が並べられていて、なんとなく森の学校という雰囲気です。続々と集まってきた受講者は若い学生らしきひとたちが多いと感じました。ちいさな子供連れのひともいらっしゃって、アットホームな雰囲気のなか講演がはじまりました。

まずマルチ・プロデューサーの関智さんから説明がありました。イルカの学校のイルカ(ILCA)とはInnovation, Learning, Creatibity and Artsの頭文字をとったものであり、故人であるゲームクリエイターの飯野賢治さんが発起人として立ち上げた活動とのこと。イルカってそういう意味だったのかとおもっていると、小林弘人さんにバトンが渡され「飯野さんとは飲み屋で会ったことしかないんですよね。いっしょに仕事はしなかったけれど飲み屋でいろんな話をしました」という回想から講義がはじまりました。

講演はときおり会場からの参加者の声を拾いながら進行しましたが(隣のひとと挨拶をしましょう、というウォーミングアップのイントロもあり和みました。ぼくの右隣はイケメンな男子、左隣は眼鏡をかけた知的な女性でした)、まず参加者に問われたのは、講演のサブタイトルにも記された「ワイルド」についてです。いま世の中はワイルドだとおもうか、という問いに対して多くの参加者の手が上がります。実力次第で頭角を現せる時代は、確かにワイルドかもしれない。

P1000669.JPGのサムネール画像ワイルドというキーワードを踏まえて、小林弘人さんご自身のワイルドな経歴が紹介されました。どこの馬の骨ともわからない状態でワイアードというIT雑誌を立ち上げ、NeXT時代のスティーブ・ジョブズと単独インタビューを実現。このときの記事タイトル「叶えられた祈り」は、トゥルーマン・カポーティの小説の題名からとったそうです。スティーブ・ジョブズのインタビューでは写真嫌いの彼から写真を撮る許可さえ得ることができ、急遽作った表紙は35ミリフィルムで撮影した写真を大きく引き伸ばして使ったため、モアレが生じてしまったとのこと。

その後、アップルがどん底の時期には、両方から囓られたアップルのロゴを使って背景が真っ黒の表紙を作ります。アップルのファンであれば、この意図するものはすぐわかるだろうという目論見です。取次からものすごく怒られたそうですが、取次の反応とは逆に爆発的に売れて、雑誌としては異例の増刷があった。アトムが表紙の号では業界初のホログラム(立体的にみえる印刷)を採用するなど、出版業界の革命児のワイルドな試みが紹介されました。

自己紹介のあとは、Webの歴史を振り返って「学んだこと」の概観をお話されました。最初に提示されたキーワードは、

Webは人間をコピーする。

でした。インターネットの黎明期には数えるほどしかWebサイトは存在せず、Yahoo!ではたった2人でサイトを巡回してインデックスすべきページを拾っていたそうです。けれども、アメリカは面白いことを企てる人間が多かった。だから必然的に面白いWebサイトが登場した。そのアメリカの文化を日本にコピーすべく小林弘人さんはワイアードを立ち上げた。その後、Webは拡大し、現在では次のようであると語ります。

社会はWebをコピーする。

つまり、いまWebのアティテュード(行い、考え方)を学んでおくと、これから数年のちに社会がWebをコピーするかもしれない。要するにWebで行われていたことがリアルな社会で拡散したり浸透したりすることがあり得る。そこで次のような考え方につながります。

始点と終点は違っていてもいい(目標さえ見失わなければね)

目標さえ見失わなければ始点と終点は違っていてもいいという観点のもとに、Amazon、YouTube、Appleをはじめとして、さまざまな検索エンジンの動向などが俯瞰的に語られました。

たとえばAmazonは8年間赤字であったにも関わらず、上場したときに新規投資をします。さんざん社会から叩かれますが、Amazonは見据えていた目標があったからこそ批判にも揺るがなかった。その目標とは顧客のためによいサービスを実現するということです。

事業計画を立てるときに5ヶ年先の計画を立てることは「20世紀のやり方だ」と小林弘人さんは批判します。いまWebでは半年あればひとつのサービスを立ち上げることができ、3ヶ月で事業計画は修正するスピードです。しかし具体的な計画は修正されたとしても、見失ってはいけないのは目標なのでしょう。

という前提を踏まえて、Webから学んだことを7つ、ひとつひとつ解説しながら講演は進行していきました。とりあえず結果として小林弘人さんがWebから学んだことの7つをまとめてしまいますね。これです。

①強靱・迅速
②まず、始めることを終わらせる
③稀少
④与える
⑤Webじゃなくてもいい
⑥利他的でよい。それでよいのだ。
⑦動きまくれ。ぶつかってもまた動きまくれ。

ここからは小林弘人さんがお話したこととぼくが考えたことを混在させながら、簡単に講演内容をまとめていきます。

①強靱・迅速
「強靱」については、ロバストネスという生物学の用語も引き出しつつ、Amazonなどの企業における経営の強靱さを指摘されていました。8年間赤字でありながら目標に対して愚直に突き進んだAmazonのことを考えてみても、強靱な企業という印象があります。

一方、「迅速」であることも重要で、アジリティ(agility:敏捷)は「日本にはあまりない」と指摘されていました。グーグル出身で現在フェイスブックのシェリル・サンドバーグはマネタイズに長けたリーダーであり、彼女の動きは迅速そのもののようです。


0753541637Lean In: Women, Work, and the Will to Lead
Sheryl Sandberg
W H Allen 2013-03-12

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ポール・サフォーという未来学者が述べている以下の言及は印象的でした。

未来は今の延長にない。
ちょっとした飛躍があり、そこから一気に景色が変わる。

確かにそうかもしれません。ジェフリー・ムーアが言っているキャズムということをおもい出したのですが、何かが飛躍的に拡大するときにはキャズム(溝)を越える必要があり、ただしその溝を跳び越えてしまうと別の世界が拡がる。次のコトバも勇気づけられるものでした。

飛躍は論理的ではない。
飛躍を恐れてはいけない。
いつかその日のために情熱を失ってはいけない。

掃除機で有名なジェームス・ダイソンは、45歳で起業して、もはや改良の余地はないとされていた掃除機を再発明したことで偉業を成しました。多くのマーケターなどが掃除機のゴミは見せるべきではないと指摘したことに対して、機能は見えなければならないという思想を貫いた。その拘りが高価であっても購入されるヒットを生んだ。

小林弘人さんは彼にもインタビューされていて、彼の本は面白いとのこと。GEに売り込みに行ったときに、その場でゴミ箱のゴミをぶちまけられ、これを吸ってみろ、などという嫌がらせをされたエピソードも本に書いているとか。

ダイソンの本、『逆風野郎』というタイトルに吹いた(笑)


4822244040逆風野郎 ダイソン成功物語
ジェームズ・ダイソン 樫村 志保
日経BP社 2004-05-27

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②まず、始めることを終わらせる
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグは「Done is better than perfect.」ということを言っているそうです。いきなり仕様を変更することが多いフェイスブックですが、2006年にニュースフィードを公開する機能を追加して問題になった。プライバシーが全部友達に流れていってしまうからです。けれども当時問題になった機能が、いまでは最もユーザーに歓迎される機能となっています。その後、2007年にプラットホームを公開し、フェイスブックのプラットホームでビジネスを展開することを許可することで爆発的な飛躍を遂げたといいます。

始めよう始めよう、といつまでも言っているひとがいますが、まず「始めよう」を終わらせる必要があります。そうしないと何も始まらない。あれをやりたい、と夢だけを語っている人間は、きっと70歳になっても実現しない夢を語っている、ということをお話されていたのですが、その通りですね。

インターネット関連の企業にはフットワークの軽い企業が多い。完璧をめざして時間をかけて構想するよりも、まず着手してしまったほうがいい。「Done is better than perfect.」というコトバには確かに学ぶべきものがあります。

③稀少
何が稀少かというと、能力、知識、経験、体験。確かに自分の体験はかけがえのないものです。その結果、サービスデザインやユーザーエクスペリエンスに注目が集まるようになりました。いままでの社会は「What」が重視されていたのですが、これからは「Why」が重要になるとのこと。つまり「なぜ」その製品を使うのかという理由、あるいは理由の背後にあるストーリー(物語)が求められるようになるわけです。

④与える
ポトラッチという風習のイラストがプロジェクターで表示されたのですが、この風習のことは、ぼくも聞いたことがありました。パ。ワーを持っているひとが他のひとに与え続ける風習で、お返しをしなければならないので疲弊していくらしい。とはいえ、誰かわからないけれど誰かのために与えるならば、それがいつかあなたのために返ってくるかもしれない、という発想はとてもいいと感じました。

与えるというキーワードから、以下のサイトが紹介されました。

・CouchSurfing
https://www.couchsurfing.org/
おもてなしの交換サイト。「海外旅行などをする人が、他人の家に宿泊させてもらう(カウチをサーフさせてもらう)という形式の相互的な思いやりや信頼による制度(Wikipedia)」ということで、大丈夫なのかな、とおもったら、やはり一度はトラブルがあったらしい。しかし、その後はバウチャー制度などセキュリティが強化されているようです。

・ZOPA
http://uk.zopa.com/
ソーシャル・レンディングというサービス。一般のひとからお金が借りられる仕組みです。イギリスではTVCMも公開されているらしい。日本ではSBIが展開とのこと。金利も安いので、ちょっとお金の足りないひと、お金が余っていて他のひとに貸してあげたいひとは、今後このような互助経済を発展させていくのかもしれません。

・KHAN ACADEMY
https://www.khanacademy.org/
無料動画で授業が視聴できるサイト。

面白いなとおもったのは、検索エンジン時代のWebは「中抜きの力」が注目されていたことに対して、これからは人の力を「素敵に」借りられる仕組みが注目されるだろうという指摘。

OUYAというオープンソースのゲーム機の例も取り上げられました。OUYAはキックスターターで資金が調達され、著名なゲーム機でソフトを作るためには膨大なお金がかかるけれど、オープンソースのゲーム機であれば比較的安価でも開発ができるため、クリエイターたちに門戸が拡げられる。技術さえあれば誰でもゲームを開発、公開できることになるようです。

⑤Webじゃなくてもいい。
Webから学んだことが「Webじゃなくてもいい」。実に究極だなと感じたのですが、WebじゃなくてもいいというのはWebを使わなくてもいいということではなくて、コンテンツの発想はリアルにアイディアが転がっていて、それをどのようにWebに組み込んでいくかが重要だということです。例として次のWebサイトが挙げられました。

・いろどり
http://www.irodori.co.jp/
徳島県上勝町を起点として展開している葉っぱビジネスです。弁当の葉っぱを提供する会社を創って、年商2億にまで拡大。映画にもなったそうです。

・TCHO
http://www.tcho.com/
こちらはチョコレート工場。アメリカのチョコレート会社は輸入したチョコを再加工して販売しているようです。あらためてWebで検索してみると、TCHOとは「Technology meets CHOcolate」ということらしい。

これらのWebは「仕組みありき」で展開されています。Webのなかで完結してサービスを構築するのではなくて、リアルのサービスの仕組みがあってWebをうまく利用しているところがポイントではないかと感じました。

⑥利他的でよい。それでよいのだ。
「それでよいのだ」と繰り返しているように、これがいちばん大事な「学んだこと」であると感じました。一方で、脆く揺らぎやすい思想でもあります。

企業は自社の利益を追求するものであり、個々人も自分が大事です。けれども他者にとって何かよいものを提供しようと考えたときに、新しいものが生まれる。講演の最初に提示された「サバイブ」から連想するのは他者を蹴落とす競争社会ですが、ほんとうにサバイブするためには他者との共存、あるいは他者を生かすことで自分も生きるような発想が重要になります。次の言葉は印象的でした。

素敵に力を借りるには、素敵に力を貸す必要がある。
真のサバイバーは利他的なのだ。
リアルワールドで生き残ることは利己的。
それは資源が限られているからだ。

限られた資源を奪い合うことがリアルのサバイバルです。領地を奪い合う戦争などはいい例かもしれません。けれども、Webの世界では資源は無限にあるともいえる。もちろん人間の能力には限りがありますが、他者に力を貸そうとする気持ちは無尽蔵にあると考えていい。Webに限らずリアルでも同様だとおもうのですが、力を奪うだけの人間は他者から力を借りることができない。他者に力を「与える」ことができるものだけが借りることもできるという法則は、納得できる要諦であるとおもいました。

⑦動きまくれ。ぶつかってもまた動きまくれ。
動きまくると何が生まれるかというと、セレンディピティ(Seredipity)です。セレンディピティとは「偶然、幸運な発見をする能力。発見をすること。発見の事例」であって、「セレンディップの3人の王子たち」という物語から生まれた言葉です。


4036526308セレンディップの三人の王子たち―ペルシアのおとぎ話 (偕成社文庫)
竹内 慶夫
偕成社 2006-10

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Webを使ってよかったことは何?という問いに対して「この講演に参加できたこと」という回答をした参加者もいましたが、確かにぼくも参加してよかったとおもいました。それは積極的に参加しようと「動いた」からこそ得られた結果であり、動かなければ何も得られなかった。ちょっとぐらい恥をかいても失敗してもいい。大事なことは動き続けることかもしれません。

「大きな企業は偶然を許さない」ということを指摘されていましたが、それも納得できる話で、それぞれの社員が偶然を起こして仕事をしたら会社としての統制が崩れてしまいます。けれども小規模なベンチャーであったり、あるいはもっとスケールを縮小して個人であれば、偶然を契機として人生を変えることもできる。

そんな人生を、そして世界を変えたムーブメントの例として「Free Hugs」という活動の映像を最後に流しました。あるアメリカ人の話で、彼のお母さんはいつも彼をハグしてくれた。なぜかわからないけれどハグしてくれた。けれどもお母さんが亡くなってしまって、抱きしめてくれるひとがいなくなってしまった。そこで彼は、通りに出て他のひとをハグするようになった。

「人間は誰かを助けるためにある」という思想が背景にあります。究極のところ、ぼくらは誰かを助けるために存在しているのかもしれません。というよりも自分のためだけではなく、誰かのために存在していたいものです。

「Free Hugs」の映像を観ました。



正直なところ、ぼくはこの映像が流れているあいだ、涙が出てきて困りました。音楽もいい。Free Hugsのプラカードを掲げているひとは、はじめのうちは気持ち悪がられて敬遠されているのですが、しばらくすると何人ものひとがハグしてくれるようになります。しかし、警察に捕まってしまったりもする・・・。

「強靱」にもつながることですが、ひとつのムーブメントを起こすためには愚直に「動き続ける」ことが大切です。そして、インターネットは冷たい世界のようでいて、その向こう側には血の通った人間の生活がある。Webで他者に何かを「与える」ことはハグなんだな、とおもいました。サバイバルということがテーマだったのだけれど、最後には、とてもあったかい気持ちになった講演でした。

ところで余談ですが、隣のひとと挨拶をしようというウォーミングアップのときに「よろしくなっ!」と後ろの席にいた方から背中を叩かれ、びっくりしたのですが、小林弘人さんから「身体の大きいひと」と呼ばれていたその方は「鉄コン筋クリート」や「アニマトリックス」などのアニメプロデューサーの竹内宏彰さんでした。講演後に名刺交換をさせていただき、電子書籍をつくりたいということを伝えたところ、声優志望者に対する学校案内はどうだろう、というビジネスアイディアをいただきました。

最後の質問コーナーでは、ぼくも小林弘人さんに質問させていただき、本と電子書籍の未来について伺ったのですが、「電子書籍の登場によって、台割りのある雑誌的なものは紙媒体として消えていくかもしれない。けれども書籍は残るでしょう」という見解をいただきました。

それから穴があれば入りたいぐらいに恥ずかしかったことをひとつ。小林弘人さんとも名刺交換をさせていただき、ぼくはその際に本にサインをいただきたかったのだけれど、間違えて家入一真さんの『こんな僕でも社長になれた』を持っていってしまった(苦笑)。ご本人の前で、この本にサインを・・・と書店のカバーを外したら、家入さんの本で「家入くんの本に僕がサインしたらダメでしょー!」と言われてしまった。そりゃそうですよね。ああ、恥ずかしかった。

と、いろいろなことがありましたが、とても充実した土曜日の夜でした。イルカの学校、また参加したいとおもいます。世田谷ものづくり学校もとても面白い場所だと感じました。校内の机にたくさんのフライヤーが置かれていたので、めぼしいものを片っ端からいただいてしまった。帰宅してからいただいたフライヤーに目を通したのですが、デザインから音楽、映像まで、さまざまなクリエイターの活動が刺激的で、地域活性化のためのプロジェクトもあります。これは!というイベントなどには、積極的に参加していくつもりです。
「ミイル(miil)」というフード系ソーシャルアプリがあります。ブログやSNSなどで料理の写真を公開するひとも多いかとおもいますが、「ミイル(miil)」は料理の写真を撮って友達と共有できる写真アプリです。Android版およびiOS版が提供されています。

http://miil.me/
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P1000565.JPG大学時代の知人の有賀薫さんは、このアプリを使って365日間、毎朝スープを撮り続けました。その365日分の朝のスープ写真とともに、ご自身で描かれた絵を展示し、さらにレシピの公開に加えて実際に会場でスープまで飲めるという至れりつくせりのイベントが神楽坂フラスコで行われた『スープ・カレンダー』でした。

地下鉄東西線の神楽坂駅、神楽坂方面の出口からゆるやかに坂を下り、100円ショップの角を左に折れて公園に向かう路地をちょっと入ったところにフラスコはありました。1階の入り口が路地に面していて、散歩中にふらりと立ち寄るひともいたようです。

神楽坂って、いい感じの街ですね。ぼくはあまり来たことがなかったのだけれど、なんとなく和む雰囲気がありました。そんな神楽坂の路地裏でさりげなく展示されているスープたち。神楽坂にスープはよく似合うかもしれない、とおもったりして。

開放的な入り口から、壁いちめんに貼られた365日のスープがみえます。女性だけでなく男性の方もたくさん来ていました。

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365日のスープには、ひとつとして同じ顔がない。毎日違うスープを作ろうと決めていたそうですが、色とりどりの365品を見渡していると圧倒的な生活のチカラを感じました。

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カレンダーは特殊なクロスに印刷されたもので、レイアウトデザインに関してはblue vespaというデザイン制作会社とのコラボ。確かに商品として買い求めたくなるクォリティを感じました。この展覧会に合わせて絵画も描いたそうですが、プロのデザイン仕事に匹敵するような作品を描かなければならず、かなりプレッシャーを感じたと有賀さんはお話されていました。

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とはいえ、有賀さんの描かれた絵もよかったですよ。水彩の淡い滲み具合がとても繊細です。ぼくは鍋を描いた絵のメタリックさに惹かれました。

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会場にはいくつかのスープのレシピと実際に使う野菜も展示されていました。野菜は会場で買い求めることもできる。

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しかも、「本日のスープ」として展示されているスープを会場で食べることができます。レシピのなかから2品のスープが提供されていて、ぼくは春野菜のミネストローネをいただきました。500円。おいしかった。やさしい味がする、という感想を述べていた方がいましたが、春の味がしました。

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有賀さんが会場で配っていた名刺には「画家/スープ作家」という肩書きが書かれていて、おもしろいとおもいました。絵を描くことで彼女は創造的な活動をしているわけだけれども、主婦が毎朝作るスープも十分にクリエイティブであり、生活がアートになる。しかも365日という日々の積み重ねは圧倒的な実績として「表現力」をもつ。

創造というものは、どこか洗練された遠い世界にあるのではなく、ぼくらの生活のなかに既に存在しているんじゃないかな、ということを神楽坂からの帰り道に考えました。
大学時代の知人、有賀薫さんのちょっと変わった展覧会「スープ・カレンダー」が本日4月5日(金)から4月10日(水)まで、神楽坂のフラスコで開催されます。

有賀さんはライターをやりながら絵も描かれているという多彩な女性ですが、今回は写真と絵画展という催しとのこと。毎朝、iPhoneのアプリで撮影したスープの写真を365日分、一挙に展示されるそうです。

サイトの告知を読むと、スープ・カレンダーのプロジェクトから2つの製品が生まれたようであり、さらに会場では手作りのスープも味わえるらしい。絵画や写真にとどまらない立体的な展示になりそうです。まさにライフ・イズ・アートという感じでしょうか。楽しみですね。

サイトはこちら。

http://kao-run.com/e4-top.html
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有賀 薫 写真と絵画展
『スープ・カレンダー』

【日時】
2013.4.5(金)~4.10(水)
12:00~20:00 (最終日のみ17:00まで)

【会場】
神楽坂 フラスコ
〒162-0825
東京都新宿区神楽坂6-16
TEL : 03-3260-9055
http://www.frascokagura.com/

【アクセス】
東京メトロ 東西線 神楽坂駅 1番出口(神楽坂口)から、徒歩3分
都営地下鉄 大江戸線 牛込神楽坂駅 A3番出口から、徒歩5分


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高校生の頃、ぼくの神様といえば詩人の谷川俊太郎さんでした。思潮社の分厚い「谷川俊太郎詩集」はバイブルであり、何度も読み耽りました。そうして自分も詩人として生きることを夢想しました。

478372315X谷川俊太郎詩集
谷川 俊太郎
思潮社 2002-01

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トウキョーの大学に進学し、社会人になり結婚して子供もできて、詩とは遠く離れた場所で生活しています。詩人になろうなどという夢は跡形もなく消えて、詩を読むことも少なくなりました。けれども、やっぱり詩が好きなのかもしれない。大きな声では言えなかったりするのですが。

3月31日、荻窪の6次元というずっと前から訪れたかったカフェで行われた「ポエガール主義」というイベントに参加しました。ポエガール( http://poe-girl.tumblr.com/ )というのは『詩にあこがれよう、こころを愛でよう』をテーマに、谷川俊太郎さん、覚和歌子さんなど人気詩人が参加している詩のブランドであり、詩のグッズなどの販売もしています。今回は、ポエガール初のイベントとのこと。

写真 2013-03-31 13 30 48.jpgのサムネール画像のサムネール画像実は中央線の電車内で開催時間を30分間違えていたことに気づいた。13:30から始まりだとおもっていたですが13:00でした。遅れちゃったと焦って荻窪の駅に降りたら道に迷い、途中でひとに聞いてやっと6次元に辿り着きました。1階に木のプレートがかかっていて、おお、インターネットでみた通りだ、と感動。

階段をのぼってドアから店内を見ると、たくさんのひとたちが集っている。うわ、この状態で遅刻は恥ずかしいなとおもいつつ店内に入ると、30人ぐらいでしょうか、熱心にイベントをみている参加者のみなさんの熱い雰囲気に飲まれそうになりました。

ぼくが参加したときには、しらくまいく子さんの映像がプロジェクターに映し出され、文月悠光さんと対談が行われていたところでした。静かに流れる海の映像に慌てて参加した自分のこころが癒やされていくのを感じました。その後、休憩をはさんでオープンマイクの時間。

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実はこういう詩のイベントに参加するのは、はじめてだったのですが、オープンマイクではみなさんが前に出て、3分間の与えられた時間のなかで詩を朗読する。20人ほどの方が参加されました。自作の詩を朗読される方が多かったのですが、詩を持ってきたひとを募ってその場で初見で詩を朗読する方がいたり、ギターを弾きながら歌うひとがいたり、あるいは検索朗読なるものを披露するひともいて面白かった。検索朗読というのは、その場で検索ワードを挙げてもらって(このときは「海」と「少女」)、それを読み上げるもの。

詩にはリズムがあり、テンポよく語られる朗読は気持ちがいいものです。田中庸介さんの読まれた詩はまさにリズムを感じさせるもので、その場の空気を変えてしまうような迫力がありました。「ぱぷりかあふりか」というフレーズが耳に残りました。田中庸介さんが朗読している写真です。

写真 2013-03-31 14 27 06.jpg

個人的にインスパイアされたのは谷川俊太郎さんの「これが私の優しさです」の朗読。とてもうつくしい女性の方が朗読されたのですが、あらためてその詩のもつ繊細な世界に感銘を受けました。

写真 2013-03-31 14 58 15.jpg

「これが私の優しさです」を引用しておきます。

窓の外の若葉について考えていいですか
そのむこうの青空について考えても?
永遠と虚無について考えていいですか
あなたが死にかけているときに

あなたが死にかけているときに
あなたについて考えないでいいですか
あなたから遠く遠くはなれて
生きている恋人のことを考えても?

それがあなたを考えることにつながる
とそう信じてもいいですか
それほど強くなっていいですか
あなたのおかげで

泣ける。すばらしいですね。

朗読された方は22歳の大学4年生で、子供の頃から詩が好きだったとのこと。イベント後にちょっとお話したところ「大人っぽくみられて困ります」というようなことをお話いただいたのですが、よいのではないでしょうか。谷川俊太郎さんが好きな大人っぽい綺麗な女性。いいとおもいます。

写真 2013-03-31 13 48 35.jpg


会場ではポエガールのさまざまなグッズも販売されていました。なかなか、かわいい。イベントでは進行役としてマイクを握り、グッズに詩を提供されている松崎義行さんに誘われて2次会にも参加したのですが、詩を売ることの難しさについていろいろな方からお話を伺いました。

文芸をビジネスにしようとすると難しい。ぼくがやろうとしている電子書籍もそうなのだけれど単体で採算をとることは困難です。ソーセキ・トゥエンティワンではデジタルコンテンツの制作や販売を事業領域に定めていますが、ビジネスとして利益を生むのは、コンテンツに付帯したサービス(たとえば教育とか)ではないかと考えています。その他の部分で事業基盤を安定化させて、文芸の分野に投資するイメージ。夢だけを追っていても食えなければ生きていけないので。

ところで、ポエガール主義のイベントでは、ぼくもオープンマイクに参加しました。ぼくはKindle Fire HDで自作曲を流しました。自作曲は「AME-FURU」。ついでに歌詞カードを配ったのですが、PDFをここに掲載しておきます。

AME-FURU.JPG

AME-FURU.pdf

BOOKS

以下のムックおよび書籍で原稿を書かせていただきました。

4800249368天皇家の食卓と日用品 (TJMOOK ふくろうBOOKS)
宝島社 2015-12-04

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4800246660月とこよみの本
林 完次
宝島社 2015-09-18

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詩の電子書籍です。

B00CPQ6MM2天秤座の彼女 (ポエムピース電詩文庫)
マツザキヨシユキ 外岡浩
株式会社ソーセキ・トゥエンティワン 2013-05-08

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B00CXACOIG小峰に纏わりつくネコ (ポエムピース電詩文庫)
マツザキヨシユキ 外岡浩
株式会社ソーセキ・トゥエンティワン 2013-05-20

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DTMアーカイブス



自作曲弾き語り

ネバー・エンディング・ストーリー(THE NEVER ENDING STORY Cover)