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プリンタを買い換えた。
キヤノンのPIXUS MG7530。


B00N3F47QMCanon キヤノンインクジェット複合機 PIXUSMG7530BK ブラック
キヤノン 2014-09-04

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以前にはやはりキヤノンのip4100を使っていたのだけれど
・かなり古くなってしまったこと
・スキャナが付いていないこと
・息子たちがプリントする必要があったこと
ということで購入。

10年間ぐらい、プリンタを買い換えずに使ってきて
最新の機材を購入および使ってみて驚くことがたくさんあった。
情報化社会の浦島太郎である。

まず、驚くほどの低価格。これはおそろしい価格破壊だ。

某家電量販店で購入したのだが、
ポイントを700円分ぐらい充当して16,740 円なり。

純正インクが約5,000円だったので
インクを買い換えるなら
本体買っちゃったほうがいいぐらいだ。

次に、さりげなく導入されているさまざまな最新技術。

無線LANでつなげることが便利。
配線がごちゃごちゃしなくてすっきりする。

NFCを読み取るので、スマホやタブレットをかざすだけで印刷可能。
いちいちケーブルを接続する時代は
終焉を迎えているのかもしれない。

ファームウエアを無線LANの通信経由で
アップデートすることもできる。

イーロン・マスク氏の率いるテスラモーターズが
クルマの不具合をネット経由でアップデートする時代なわけだ。

IoT(Internet of Things :モノのインターネット)が進展して
いまにアップデートできないのは
人間ぐらいになってしまうなあ、と苦笑した。

ちなみにIoTに関しては、日本テレビ「SENSORS」
女性クリエイター対談の書き起こしがlogmiに載っていて面白かった。

Rubyの女神とも呼ばれる池澤あやかさんが
金魚の水槽にセンサーを取り付けて、
水温が熱くなると「死にそう......」とつぶやく仕組みを
作った話に笑った。

ギーク女優・池澤あやか、IoTの魅力は「植物とか金魚と会話できるところ」-女性クリエイター座談会

ところで。
PIXUS MG7530を購入してから
フェイスブックの右側にあるフェイスブック広告に
PIXUS MG7530の広告が出るようになった。

いや、もうこれ買っちゃったもん、とおもっていると
次には安い機種を表示する(苦笑)

なんだかなあとあきれていたところ、
さらに安い機種を表示してきた。

ひょっとしてバカにしてますか?

Amazonのおすすめ機能が代表的だが
これらはレコメンデーションエンジンと呼ばれる
インターネットの閲覧や記載の履歴をもとにしたデータベースから
推測して表示される。

広告の場合は、DSP広告と呼ばれる仕組みがある。
DSPとは、Demand Side Platformの略で
要するに不特定多数にムダな広告を配信するのではなく
需要(Demand)があるターゲットを選別して
広告効果を最大化、効率化する。

文字からみると一見、消費者に合わせた広告のようにみえるが
DSP広告の需要があるのは広告主だ。
ムダな広告は打ちたくないよね、という広告主のご都合だ。

しかしだな、買っちゃったものを表示しても効果がないだけでなく
何度も何度もレコメンドされちゃうと気分が悪くなる。

だから、アドテクノロジーは嫌われるのだ。

現在のこうした人工知能(AI)の問題は
「空気が読めない」ことに尽きる。

広告を「土足マーケティング」と呼んだのは、
セス・ゴーディンだった。
もう10年以上前の本になるが、以下に書かれていた。


4881358057パーミションマーケティング―ブランドからパーミションへ
セス ゴーディン Seth Godin
翔泳社 1999-11

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現在のアドテクノロジーは
データベース上の履歴や記載から推測するが
人間の気持ちまで読みとる精度は、現在のところはない。
だから「土足」で踏み込んでくる。

だが、最近ネイティブアドに対する批判が高まっているが
「広告なのに広告じゃないようにみせる」人為的な工作をするより
まだ機械のほうが、ある意味、誠実ではないかとも感じる。

補足すると、ネイティブアドとは
各メディアが記事の体裁で配信する広告のことで
インフィードなどさまざまな形態があるが
主要なものは、過去の広告でいえば「記事広告」だ。
言い切っちゃうけれども。

かつて新聞や雑誌などのメディアでは
スポンサーがお金を出して掲載している記事体裁広告は
「PR」や「提供」などきちんと記載をして
「これは記事のようですが広告ですよ」と明示していた。
消費者を惑わせないためだ。

それを一部のデジタルメディアが
「PR」や「提供」を抜いて記事のように見せかけたことが
議論されている。

いっとき問題になった
ステマ(ステルスマーケティング)まがいだということで
眉をひそめたり、怒り狂っているひとがいる。

が、しかし。
消費者からすると、どーでもいいことのようにもおもえる。
なにをそんなに騒いでいるのだ?と滑稽にみえる。

いかにも「買ってくれ!」ビームをびしばし感じるものは
広告だろうが編集記事だろうが、ちょっと引く。

とはいえ、いいものを真摯に丁寧に紹介しているコンテンツに関しては
広告だろうが編集記事だろうが、ふむふむと読む。
それを買うかどうか判断するのは読者(消費者)である。

まあ、早い話がスポンサーがいるなら
「広告」って書いちゃうのが誠実で、それだけのことでしょ。
書けばいいじゃん。誤魔化さずに。

ブランディングは企業と消費者の信頼のきずなであり
企業側から何を発信するかが重要ではなく
消費者のなかに蓄積された信頼が重要になる。

これは『ブランド・マインドセット』という本に書かれている。
誠実さは大切。


4881358669ブランド・マインドセット
デューンE. ナップ Duan E. Knapp
翔泳社 2000-08

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脇道にそれました。広告の話はおしまい。

いまは「空気を読めない」人工知能だけれど
いずれは、学習して精度を上げることで
もしかすると心に刺さるようなオススメをするようになるかもしれない。

そのための技術のひとつが
「機械学習(machine learning)」だろう。

たとえば、ご存じのひとも多いかもしれないが
マイクロソフト社が構築した
年齢と性別を当てる「How-Old.net」が話題になった。

マイクロソフト社の開発者向けイベント
「Build 2015」の基調講演でAzureのデモとして紹介され
Azure Marketplaceの顔認識API、PowerBI、Azure Stream Analyticsを使って
構築したそうだ。

Microsoftの顔写真での年齢/性別当てサイトが人気に(Azureのデモで)

「やだ、私ってばまだ20代?!いや~ん」
女性をよろこばせるために、女性の顔を判別したときには
ちょっと年齢を低めに表示するような
アルゴリズムがあるんじゃないかと邪推する(笑)

Azureのクラウドベースの機械学習は「Azure ML」で、
雌牛の発情期を予測して出産頭数を増やすなど
畜産業でも活用されはじめているという。

牛も「コネクテッド」に--機械学習の力が分かる3つの活用事例

こうして人工知能が発達すると
ある時期にテクノロジーが人間の知性を超えてしまう
そんな時代が到来するかもしれない。

ツイッターで教えていただいたのだが
「シンギュラリティ(特異点)」というらしい。

茂木健一郎氏がGLOBIS 知見録で10分間で60枚ものスライドを駆使して
シンギュラリティを含めた人工知能について解説されている。

テンションの高さに圧倒されるが、このプレゼンは凄い。



シンギュラリティに興味が沸いたので
Amazonでレイ・カーツワイルの本を購入した。


4140811676ポスト・ヒューマン誕生―コンピュータが人類の知性を超えるとき
レイ・カーツワイル 井上 健 小野木 明恵 野中香方子 福田 実
日本放送出版協会 2007-01

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図書館で借りていたのだが、あまりの分厚さに読み切れずに
返却してしまった。しかしやっぱり読みたいので購入。
めっちゃ分厚いのだが面白い。

人工知能の発達を危惧する知識人も多い。
スティーヴン・ホーキング博士をはじめイーロン・マスク氏もそのひとり。
コルタナを開発するマイクロソフト社を創業した
ビル・ゲイツ氏も警鐘を鳴らした。

まさにSFのような状況だ。
21世紀っぽい。いや実際に21世紀なのだが。

スパイク・ジョーンズ監督の『her』という映画のように
人工知能に恋をしてしまうことも現実にありそうだ。



やがて人工知能は
知性だけでなく感性を
そして感情を持つようになるかもしれない。

しかし、そのとき人間の優位性は
生身のからだを持っていることではないだろうか。

五感がデータ化されてクラウドに蓄積されたとしても
いま、自分が感じているクオリア
つまり感覚は自分だけのものだ。

150510_aozora.jpgあなたがあなたであること。
それはいま感じている空の青さだとか
空気のすがすがしさだとか
おいしいご飯だとか
あったかい誰かの掌にある。

だから、カラダを大切にしたい。
というのはそれが人間独自のものだカラダ。

とかなんとか。
お後がよろしいようで。

(外岡 浩)

京セラおよびKDDI(旧・第二電電)の創業者である稲盛和夫氏は数々の著書を出されていますが、多くの著書の内容は重複しています。ほとんど同じことを繰り返し述べているといっていいでしょう。しかしながら、その言葉は決して重複しているから退屈ということはなく、読むたびに深く心に染み渡ります。6月に集中して5冊あまりの著作を読んだのですが、稲盛氏の思想に学ぶところがたくさんありました。

稲盛氏の仕事観と人生論は、ひとつの方程式に集約されます。
それがタイトルに掲げた「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」です。
どういうことなのか、実際に検証しつつ紹介してみますね。

この方程式の前提として「考え方」はマイナス100からプラス100までの値、「熱意」「能力」は1~100までの値とします。

いま、平均的な能力50と平均的な熱意50の池田さん(仮名)がいるとします。

スライド1.PNG

Aさんが平均的な考え方をすると、50×50×50で人生・仕事の結果は12万5,000となります。

スライド2.PNG

ところが、高平さん(仮名)は熱意も能力も池田さん(仮名)と同じ平均的な50 の力があるのに、組織に不満があったり、仕事を批判的にとらえたり、とにかくネガティブ思考で、考え方がマイナス50だとします。

スライド3.PNG

するとどうなるか。マイナス12万5,000の結果になってしまいます。

スライド4.PNG

稲盛氏の解説によると、なまじ熱意や能力が高かったとしても、考え方がネガティブであれば、熱意や能力があるからこそ正反対の残念な結果になってしまうということです。

よくいるタイプだとおもいました。かつて会社に努めていたときの自分もそうだったかもしれません。能力はともかく、熱意だけはあったと自負しているのですが、ネガティブ思考に転じてしまうと、逆に熱意がマイナスのベクトルに働いてしまうんですよね。

さらに、山本さん(仮名)は能力は25 しかないのですが、自分にスキルがないことをしっかりと自覚しています。そこで卑屈になることはなく、自分に能力がないからこそ普通のひと以上の75の熱意を持ち、素直で前向きな75の考え方を持っていたとします。

スライド5.PNG

計算すると、Cさんの人生・仕事の結果は14万625になります。つまり平均的なAさんよりもすばらしい結果を残すことができる。

スライド6.PNG

もちろんこれは普遍的な方程式ではなく、稲盛和夫氏の「哲学」を数式化したものです。平凡な人が最大の結果を出すにはどうすればいいのか、ということを考え抜かれて考案した方程式だそうです。この方程式のポイントは次の3つではないでしょうか。

①能力はなくてもかまわない。

「スキルがないから」とか「才能がないから」という理由で人生や仕事を諦めてしまうひとがいます。けれども能力はなくてもいいのです。熱意もしくは考え方でカバーすればいいのですから。

「熱意」がないと感じたひとは、まずは眼前の仕事や日々の生活に没頭してみることです。たとえば、歯を丹念に磨くでもいい。あるいは、挨拶だけは大きな声でしっかりするでもいいのです。そういう「人間の基本」を愚直かつ誠実に遂行することによって、人生が好転することがあります。

②熱意は大切。

稲盛和夫氏は、人間には3種類のタイプがいるといいます。第一に「可燃性」、第二に「不燃性」、第三に「自然性」のタイプです。

「可燃性」というのは誰かから指示を受けたら熱意やモチベーションを高められるひと。「不燃性」は、何か指示されても熱意を燃やすどころか消してしまうような冷めたひとです。クールといえば聞こえがいいかもしれませんが、「そんなの無駄だよ」とか「それって前もやったことがあったけどダメだったよね」などと発言して組織全体の士気を低下させるようなひとでしょう。

「自然性」のひとは誰から何も言われなくても、自発的にモチベーションを高められるひとです。自律的といってもいいかもしれません。自分で課題を発見し、目標を定め、困難に立ち向かっていける人物のことをいいます。

稲盛氏は、自然性のひとであれ、ということを述べています。「モチベーションが上がらない」と愚痴るひとがいますが、正確には「モチベーションを上げられない」というべきであり、みずからを燃やすことができないのは自分に原因があります。ひとから指図されて燃えるのは「可燃性」の人であり、もし自分の人生や仕事で結果を出したいとおもうのであれば、自ら燃える「自然性」の人であることが必要です。

③考え方が人生と仕事を大きく左右する。

考え方の値はプラスからマイナスまでありますが、方程式が掛け算である以上、この値が大きく結果を左右します。稲盛氏が強調されているのは「正しい」考え方です。この正しさとは、世代が変わったとしても正しいと認識されることであり、「天」つまり神様が認める正しさです。決して私欲から生じた正しさではあってならないとします。

「考え方」は「哲学」といってもいいかもしれません。通常、哲学というと、どこか日常生活からかけ離れた役立たないものという認識がありますが、稲盛氏の哲学は実践的なものであり、単なる概念の戯れではありません。このような実践的な哲学を持つことは大事です。

企業において哲学とは「経営理念」といえるでしょう。ジェームズ・C・コリンズ/ジェリー・I・ボラスによる『ビジョナリーカンパニー』では、持続的に価値を生み出す企業の条件として「基本理念」の重要性を説いていますが、しっかりとした哲学を軸に据えた企業は事業がブレないものであり、企業ブランドとしての信頼性も高いといえます

・・・

稲盛氏の方程式から3つのポイントを確認しました。もうひとつ大事なことは、「人生」と「仕事」がリンクしているということ。「仕事」を通じて人間性を高めて、結果として人生を豊かにしていくことが稲盛氏の思想の根源にあります。

「仕事なんて稼ぐための手段だよ」とか「ブラック企業ばかりの時代に社畜になってあくせく働くのは馬鹿じゃね?」という考え方もあるかもしれませんが、要はそういうマイナスの考え方をしていれば自分の人生をマイナスに導いて、勝手に自滅するだけです。

自滅しても構わないのであればマイナス思考に拘泥していればいい。
しかし、自分の人生を誠実に生きようとするのであれば、稲盛和夫氏の方程式から学ぶことはたくさんあります。

■参考図書

4763195433生き方―人間として一番大切なこと
稲盛 和夫
サンマーク出版 2004-07

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4837923100働き方―「なぜ働くのか」「いかに働くのか」
稲盛和夫
三笠書房 2009-04-02

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B00799SNAO心を高める、経営を伸ばす (PHP文庫)
稲盛和夫
PHP研究所 1996-05-31

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4822740315ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則
ジム・コリンズ ジェリー・I. ポラス 山岡 洋一
日経BP社 1995-09-29

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(外岡 浩)

昨日、中島義道さんの『差別感情の哲学』を読了しました。


4062154919差別感情の哲学
中島 義道
講談社 2009-05-15

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中島義道さんはイマヌエル・カントの研究に基づいた独自の思想を展開している哲学者です。その思想には毒もあるのですが、「人間はどうせ死んでしまう」という問いを追究しつつ自分の人生の破滅ぶりを赤裸々に語る誠実さに、多くの愛読者が存在します。好きな著者のひとりであり、関心が高じたあまりに彼が師事している大森荘蔵さんの哲学書まで読み漁ったことがありました。

『差別感情の哲学』では、「自分の信念に対する誠実性を保ちながら、他人の幸福を求めることができるだろうか」というカント的な命題を追究しています。

一般的に「差別は撲滅しよう」と声を荒げるひとも存在しますが、差別感情は人間の持つ自然な感情です。撲滅すべきものではなく、また撲滅できるものではないし、撲滅すること自体が不健全といえます。しかし、この無意識に生じる差別感情を意識化して常に省みることが重要だという考え方に共感しました。 

たとえば日常的に、あるいはソーシャルメディアなどで子供の話をすることがあります。

息子がこんな作文を書いちゃったんだよね、とブログを書く。けれどもその文章は、子供に恵まれない家庭にとって「差別」になるわけです。例えば交通事故で子供を亡くして悲痛に暮れている親が読んだとすれば、心の痛みにさらに追い打ちの棘を刺すような文章として読まれてしまいます。

ただ日常の楽しさを書き綴っただけなのに、その無邪気な言葉によって誰かを傷付けることがあります。本人が意識していなかったとしても、何かを選択するときには別の何かを排除しているわけであり、言葉が形にないものを形にする行為である以上、何かを喋ったとき、書いたときに必ず差別が生まれます。

『差別感情の哲学』では、肯定的な感情である「自尊心」や「向上心」さえも差別になるという考察が新鮮でした。たとえば頑張れる人の発言は、頑張れない人にとっては差別になります。健康であることを語ることは健康ではない人を差別しています。何気ない誇りや向上心の中にも差別感情は潜んでいるのです。

そんな風に考えていくと何も語れなくなってしまうのですが、大切なのは差別的な言葉を語らないことではなく、あらゆる言葉や感情が差別になり得るという可能性を認識することです。いま自分の語った言葉はもしかすると差別を生んでいるかもしれない、誰かを傷付けているかもしれないという自省と点検を欠かさずに生きていくことが大切です。

障害者とすれ違うときに、自分のなかに生じる「ああ、なんか気まずいな」という感情を子細に点検すること。その気持ちを無難にやり過ごしたり、意識から抹消したりせずに、その気まずさを気まずさとして背負いながら生きていくことが「誠実」なのです。誠実に生きることは面倒ですね。

しかしながら、言葉をつむぐ仕事をしている上で、あるいはコミュニケーションのサービスを展開する上で、このような哲学を理解することは非常に重要であると感じました。

いま、少しずつ読み進めている本にエステー株式会社の鹿毛康司さんの書いた『愛されるアイデアのつくり方』があります。


4872905660愛されるアイデアのつくり方
鹿毛康司
WAVE出版 2012-05-08

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著者は、エステー株式会社で「消臭力」などのユニークなCMを生み出したクリエイティブディレクターですが、「CMとは暴力的なコミュニケーションである」と認識されています。

かつて鹿毛さんは、『ムシューダ~テニス篇』というCMを作ったことがありました。それは女子シングルスの決勝戦でプレイヤーが口でラケットをくわえながらプレーしていて、なぜかというと背中の虫食い穴を隠したいためだった、という映像でした。

けれども、このCMを観た身体障害者の方からクレームを受けます。この世の中には道具をくわえなければ生活できない方がいる、そういう人たちのなかには20歳ぐらいで亡くなってしまう方もいる、その気持ちがわかりますか、悲しい気持ちになりました、という切実な声でした。鹿毛さんは放送を中止しました。

そんな辛い経験があったので、東日本大震災のときには、何か倒れるシーンはないか、津波を連想させるシーンはないか、被災された方々を傷付けるような表現はないかと何度もチェックされたそうです。

こうした自省と点検の行為に深い感銘を受けました。面白い映像を作ればいいというわけではなく、広告が暴力的であるという認識を前提にして、視聴者に起こりうる感情の可能性を考えている。企画の仕事をしていると得てしてアイデアに走りがちになり、面白いからいいじゃん、という安易なノリで仕事を進めてしまうことがありますが、芸術家であればともかく、ビジネスの表現者である以上、このような繊細な自省と点検は必要であると考えます。

とはいえ、傷付けることを恐れて黙ってしまうのではなく、自省しつつ表現することが大事ですね。

コミュニケーションは「相手を変え、そして自分も変える行為」だと考えています。わかり合うとか共感を得るというような生ぬるいものはコミュニケーションではない。コミュニケーションはお互いの存在や価値観を揺るがすような激しいものであり、だからこそ創造的な活動なのです。

(外岡 浩)

4492044809電子書籍を無名でも100万部売る方法
ジョン ロック 小谷川 拳次
東洋経済新報社 2012-12-07

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タイトルはあざとい印象があり、ビジネス書籍でよくみかける煽り文言のようです。しかし、ジョン・ロックは実際に無名でありながら電子書籍の自著でミリオンセラーの偉業を成し遂げました。

この本は電子書籍を売る実践的な手法にフォーカスして、彼が経験から導き出したノウハウが惜しげもなく紹介されています。無駄な内容には一切ページが割かれていません。著者みずから述べているように、この本は読了後に閉じてしまうのではなく、彼の方法論を実践するためにあります。

とはいえ、ここに書かれていることの真髄がわかるひとは、ソーシャルメディアに親しんできた方、あるいはマーケティングを理解している方ではないでしょうか。彼は作家でありながら本職のビジネスでも成功した優れたマーケターです。これから電子書籍を書きたい、自分の著書で稼ぎたいと企てているライターや作家志望者はもちろん、コンテンツマーケティングやインバウンドマーケティングに携わるマーケターにもおすすめしたい一冊です。

ジョン・ロックは、自分自身の手法を確立するまでに、著作を売るためのマーケティング活動に膨大な時間と2万5000ドル(約200万円)以上のお金を無駄にしてきたそうです。彼が時間とお金をかけたけれど効果がなかった「出版マーケティング」は以下の7つです。

1. 出版マーケティングについて外部の人間に聞く
2. 書店マーケティング
3.新聞取材
4.PR担当者を雇う
5.プレスリリース
6.ラジオインタビュー
7.広告宣伝

一目してわかるのは、これらは広告代理店が展開するマスメディアを中心としたマーケティングであるということです。一方、失敗から学んで彼が展開した手法は、ブログやツイッターなどのソーシャルメディアを軸としたマーケティングでした。広告で幅広い読者を獲得するのではなく、特定の読者にファンになってもらい、作品を継続して読んでいただく、いわゆるLTV(ライフタイムバリュー)に着目した戦略です。

重要なことは「特定の読者に向けて執筆」したことでしょう。ジョン・ロックの強みは、読者に合わせてコンテンツ(作品)自体をプロデュースできるパブリッシャーだったことにあるとぼくは考えています。

コンテンツとマーケティングを一体化させ、ブログやSNSで読者とコミュニケーションして、読者の好みについてテストマーケティング的な調査を行いながら、商品としての著作(コンテンツ)自体を変化させる。たぶん従来の出版社と作家の分業されたスタイルでは、このような一体化した「商品(コンテンツ)開発」はできないでしょう。個人出版あるいは電子書籍だからこそ可能になることです。また、読者を大切にするという意味では、次の言葉は非常に重みを感じました(P.168)。

人は、信頼している人からモノを買う。

ソーシャルメディアを活用するといっても、見え透いた売り込みは嫌がられます。十分な信頼関係が構築されていないうちに利己的なセールスをかけられたら、拒絶したくなる。コンテンツマーケティングの際に最も留意したいことです。

「書籍コンテンツを従業員としてみなす(P.78)」という発想も面白いとおもいました。個人出版自体を会社経営のメタファとして考えていて、社長=作者、従業員=作品という箱庭的な思考が楽しい。自分の生み出した作品が従業員としてみずから顧客を開拓し、読者の反響や売上げをレポートしてくれるという考え方は、売上げや顧客管理を出版社や取次任せにしていたオールドスタイルの作家や出版では思い付かない発想です。

しかしながらジョン・ロックの提示する方法論を実践しようとして、はたと気づくことがあります。それは「コンテンツ」の優秀さです。

ブログによるファン獲得方法の解説で実際に彼が書いたエントリが紹介されているページがありますが、ここで紹介されているエントリが実に味があって上手いのです。こんな風に上手く書けるには、やはり文才が必要。これだけ上手にブログが書けたら電子書籍も売れて当然だなあ、とおもった。

というわけで、コンテンツマーケティングの手法で電子書籍を売るためには、そもそも文才というコンテンツを創造するスキル自体が必要かもしれない、という根本的な問題にぼくは気づいてしまいました。ジョン・ロックの著作が100万部売れたのは、マーケティングの手法に長けていたせいもあるかもしれませんが、そもそも彼に文才があったからともいえます。文才とマーケティング的思考の両方を持ち得た希有な人物だからこそ、ミリオンセラーも実現できたのではないか。

電子書籍が注目されている昨今ですが、ぼくは電子書籍に過剰な夢を抱いていません。けれども、個人もしくはマイクロ規模で情報発信ができ、誰もがメディアとなり得るツールの存在として期待しています。DTPの登場により従来は手が届かなかった活字をタイプすることが身近になり、ブログによって個人のパブリッシングが可能になったように、電子書籍がぼくらの表現の可能性を広げていくと考えています。

まだ黎明期ともいえる電子書籍の時代だからこそ、無名の人間が頭角をあらわすことも可能です。けれども頭角をあらわすひとには条件があり、コンテンツを作成する能力はもちろん、ジョン・ロックのようにマーケティング的なアプローチができること、セルフプロデュースのセンスのある作家が混沌のなかから伸びていきそうです。

ビジネスやプライベートの枠組みを飛び越えて、小説を書きつつ売りさばいたり、広告やPRまで何でもやっちゃうようなスーパーマンが登場する電子書籍の時代。そんな時代の到来と可能性を感じさせる本でした。
477415556XiPad mini 仕事術 やってイイことダメなこと
池田 冬彦 中筋 義人 朝倉尚 久我 吉史
技術評論社 2013-02-22

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3月1日、仕事用にiPad miniのセルラーモデル(au)を購入しました。あったらいいなとおもっていたガジェットですが、その機能と使いやすさは想像以上でした。まだ使いはじめてから1ヶ月に満たないのですが、手放せないツールになりつつあります。電車のなかでWebサイトを眺めたり、テザリングしてMacBook AirのWi-Fiルーターとして使ったり、TuneIn Radioというアプリでラジオを聴いていたりしています。

仕事で使うiPad miniの本をいろいろ探したのですが、これはという本がない。そんなとき仕事の打ち合わせの帰りに書店でこの本に出会いました。むぅ、この本はちょっといいかも、とおもいつつ、一度はスルー。やっぱり欲しくなって後日、買い求めました。

CamScannerHD_icon.jpgこの本の何に惹かれたかというと、たまたま立ち読みしたときに、名刺管理はiPad miniで写真に撮る、というTipsを読んだことです。ああ、そうかカメラにはそういう使い方もあったんだ、と目からウロコでした。本を購入したあとで「CamScanner HD」 という無料アプリのことも知り、このアプリは徹底的に活用しています。

「CamScanner HD」 は、とにかくすごい。カメラで撮影した名刺を自動的に切り出して、OCRをかけることもできる。と、ぼくはびっくりしているのですが、こういうことはタブレットユーザーには常識だったのでしょうか。Android版もあるので、スマートフォンでこのアプリを活用して名刺管理しているビジネスマンもいるはず。そんなビジネスで活用したい定番アプリが小気味よく紹介されています。

書籍の作り方として特筆したい工夫は3点あり、アプリから紹介ではなくて「やりたいこと」からの逆引きになっていること、見開き完結のモジュール化が徹底されていること、そしてタイトルで明示されていますが、「やってイイこと」だけではなく「ダメなこと」も書かれていることです。

iPad miniの全能感を謳う本もあるかもしれないけれど、ノートパソコンの代替として何にでも活用できるかというとそうではない。iPad miniには向いていないタスクもある。ただ活用を煽るのではなく、やっちゃいけないことを書いている編集姿勢は誠実であり、賢いとおもいました。

税込みで1,500円程度というリーズナブルな価格で、さらにでっかいムックの体裁ではなくiPad miniよりひとまわり大きい程度のA5判サイズというのもうれしい配慮です。画面がくるくる回転することを止めるロック機能などは基本中の基本なのだけれど、この本で読んで、あ、そうかとあらためて確認しました。そんなビギナーの疑問に答えるさりげない使い方も網羅されています。

この本で紹介されていることで、ぼくがこれからやりたいとおもっていることは、iTunes Uで慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの講義を視聴すること(ちょっとダウンロードしてみたけれどすごい。大学の授業がそのまま視聴できる)と、iPad miniを使ってデスクトップPCをリモートで処理することでしょうか。結構、高度な活用術まで紹介されている本だとおもいます。

BOOKS

以下のムックおよび書籍で原稿を書かせていただきました。

4800249368天皇家の食卓と日用品 (TJMOOK ふくろうBOOKS)
宝島社 2015-12-04

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4800246660月とこよみの本
林 完次
宝島社 2015-09-18

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詩の電子書籍です。

B00CPQ6MM2天秤座の彼女 (ポエムピース電詩文庫)
マツザキヨシユキ 外岡浩
株式会社ソーセキ・トゥエンティワン 2013-05-08

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B00CXACOIG小峰に纏わりつくネコ (ポエムピース電詩文庫)
マツザキヨシユキ 外岡浩
株式会社ソーセキ・トゥエンティワン 2013-05-20

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DTMアーカイブス



自作曲弾き語り

ネバー・エンディング・ストーリー(THE NEVER ENDING STORY Cover)